痔ろう

痔ろう(あな痔)とは

痔ろうは、直腸と肛門周辺の皮膚がトンネル状の瘻管によって繋がる痔のことで、あな痔と呼ばれることもあります。初めは肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)という肛門周辺に膿が蓄積する疾患を発症し、その後膿が排出され、トンネル状に残存した組織が痔ろうと呼ばれます。
下痢などで肛門組織に細菌が侵入し、感染することが発症原因となります。直腸と肛門の繋ぎ目部分である歯状線には、上向きの袋状の肛門陰窩(こうもんいんか)という小さな窪みが存在し、その中に肛門腺という粘液を生成する腺が存在します。肛門陰窩は小さな窪みであり、便が侵入することは一般的にはありませんが、下痢便の場合は侵入する恐れがあります。通常は大腸菌などの細菌が肛門腺に侵入しても、体の免疫によって感染は起こりませんが、免疫力や体力の低下、糖尿病などの持病が原因で感染が起こりやすい状態では化膿が起こって肛門周囲膿瘍を発症します。この感染が起こった肛門腺は原発巣と呼ばれます。肛門周囲膿瘍が悪化すると、内側で生じた膿が出口を形成するため、トンネルができて肛門の内部と外部が繋がります。これが痔ろうが生じる仕組みです。

痔ろう(あな痔)の主な症状

痔ろうは肛門周囲膿瘍から進行します。肛門周囲膿瘍は、文字通り肛門の周辺で化膿が起こって膿が蓄積することで、ズキズキする痛みや腫れが生じ、38~39℃の発熱が起こることもあります。膿が排出されると症状は解消されますが、膿のトンネルが形成された痔ろうへ進行し、肛門周辺から常時膿が排出されるようになり、下着の汚れなどで日常生活への悪影響も懸念されます。また、膿の出口が閉じた後も、時間が経ってから再び腫れが生じ、肛門周囲膿瘍を発症する恐れがあります。こうしたケースでは、腫れが起こる度に痔ろうが拡大し、アリの巣のように分岐する複雑痔ろうが起こります。痔ろうの炎症が頻発すると、痔ろうがんを発症する恐れもあるため、速やかにご相談ください。
肛門周囲膿瘍と痔ろうは薬物療法での治療が難しいため、完治のためには手術が不可欠です。

痔ろう(あな痔)の分類と
特徴

肛門周囲膿瘍

  • 次第に腫れが広がり、座っているのがつらくなります。
  • 激しい痛みが生じ、38℃以上の発熱が起こります。
  • 膿が自然に排出されるか、切開して膿を排出することでつらさが解消されます。

痔ろう

  • 肛門周囲膿瘍から膿が排出された後、トンネル状に組織が残ったものです。
  • 再発すると膿が再度蓄積し、肛門周囲膿瘍になります。
  • 薬物療法では治療が難しいため、手術が不可欠です。

様々な痔ろう

  • 痔ろうを放っておくと、アリの巣のようにトンネルが分岐して拡大する複雑痔ろうになります。
  • 段々と複雑化するにつれて、治療の難易度が上がります。
  • 最悪の場合はがん化する危険性も伴います。

痔ろうの手術

痔ろうになると、肛門の内部と外部が瘻管というトンネル状の組織で繋がりますが、このトンネルが肛門括約筋を通過することが非常に厄介です。肛門括約筋によって肛門の複雑な機能が維持されているため、痔ろうの走行や方向、深さなどを考慮して最適な手術方法を検討することが重要です。手術が必要な場合は連携する医療機関をご紹介いたします。

瘻管切開開放術

肛門括約筋にメスを入れ、瘻管を取り出す方法です。傷口は2~3ヶ月程度で治癒し、完治できる可能性も高く、再発率も1~2%程度と低いことが特徴です。なお、肛門括約筋にメスを入れるため、切開範囲によっても変わりますが、便やおならが漏出する便失禁や、肛門が変形する恐れがあります。単純痔ろうに対して実施されます。

全瘻管切除術

肛門の内側の肛門上皮と肛門括約筋の一部と一緒に痔ろうのトンネルを取り除く方法です。手術は比較的容易に進行でき、完治できる見込みが大きく、再発率も極めて低いことが特徴です。なお、肛門が大きく欠損するため、筋肉が分厚く成長した肛門後方に生じた痔ろうに対して実施されます。

シートン法

瘻管に紐状の医療器具や輪ゴムを取り付け、少しずつ締め上げることで肛門括約筋と瘻管を切る方法です。少しずつ切開するため、肛門括約筋と瘻管も徐々に切り離されていきます。切開していくうちに、初めに切開した肛門括約筋の切り口が治っていき、切開と治癒が一緒に進んでいきます。そのため、この治療法は肛門括約筋にあまり負担をかけないという特徴があります。輪ゴムは1~2週間ペースで締め上げていきます。締め直す際は、多少の違和感や痛みが一定期間残ります。切開は少しずつ進めることが重要です。瘻管の長さや深さに応じて治療期間に違いはあり、平均すると数ヶ月間となります。

くり抜き術
(括約筋温存術)

瘻管のみをくり抜く治療法です。前側方の痔ろうに対して実施します。肛門括約筋がダメージを受けないため、手術後の肛門機能障害や便失禁などは起こりません。くり抜く際に生じる肛門内部の欠損は縫合して閉じます。しかし、この閉じた部分が術後に開いてしまうと、痔ろうの再発のリスクがあります。したがって、大多数の症例で縫合により欠損部分を閉じることはなく、前述のようなシートン法を併用し(くりぬき術+シートン法)、瘻管を除去した部分に輪ゴムを取り付けます。その後はシートン法と同じように、外来で少しずつ縛り上げていきます。

全瘻管切開開放術+
くり抜き術

瘻管切開開放術とくり抜き術(括約筋温存術)を併用した手術法です。外側はくり抜き術と同様に瘻管を取り除きます。肛門括約筋の方は切開開放術と同様に瘻管にメスを入れます。最後に括約筋を手繰り寄せるように縫い合わせて手術を終えます。2つの手術の利点をミックスした手術法となり、瘻管の向きに左右されずに実施できます。